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未来図鑑

【卒業生インタビュー】

フィギュア原型師/成安造形大学非常勤講師
なかの由峰

こりずに飽きずに
つくり続けていると、
想像を越える出来事が起こる!

あなたは「フィギュア原型師」という肩書きをご存知だろうか? 『hamuco.』という屋号で、オリジナルのハムスターなどの小動物フィギュアを制作するなかの由峰さん。今では全国に根強いファンを持ち、作家としてハムスターフィギュアを制作しながら、フリーランスでさまざまな仕事を手がけている。いったいどんな学生時代を過ごしていたのだろう? 大学での学びから、知られざるフィギュア原型師の活動について話を聞いた。

—フィギュア原型師」という肩書きはいつ知りましたか?

こういう職業の人がいるのは書籍などで大学在学中に知りました。

—なかのさんは成安造形大学で立体造形を学んでいたわけではないんですよね。

在学中は絵を勉強していました。最初は軽い気持ちで粘土をこねはじめて、独学でやっていくうちに、いつの間にか仕事になっていたから自分でもびっくりです!

—絵を描くことで、やりたいことがあったのでは? いつ頃、フィギュアに目覚めたんですか?

小学生の頃から漫画やイラストを描ける人になりたいというのが漠然とあって、在学中はいろんなテイストの絵を描きながら、出版社に漫画を投稿していました。振り返るとぜんぜん面白くないのに、よくもこりずに投稿していたなって。黒歴史です(笑)。
漫画をやっていくうちにストーリーを作るのが苦手なことに気がついて、挫折まではいかないんですけど、それまで以上の絵を描く意欲が薄れてしまっていた気がします。そんな時に立体造形をしている作家さんの存在を知って、粘土をこね始めたら楽しい!ってなって。それが大学3年生だったと思います。卒業制作も絵ではなく、立体作品をつくりました。

卒業制作でつくった人形「秋桜(コスモス)」。

—作品が人形からハムスターへと移行したのはなぜですか?

在学中は人形をメインに制作をしていて、造形の練習のためにハムスターをつくっていたんですが、そのうち動物造形も楽しくなって。

—なかのさんの作品は、楽しみながらつくっているのが伝わってきます。表情とか仕草が生き生きしていますよね。

動物のなかで一番好きなのがハムスターなので、ありったけのハムスター愛を注ぎながら制作しています。今も大事に持っているんですが、小学生の時に読んだ大雪師走先生の漫画『ハムスターの研究レポート』の影響が大きいですね。ほっぺいっぱいにひまわりの種を入れる仕草とか、ハムスターの描写がとにかく可愛くて。親におねだりをしてハムスターを飼ってもらいました。今もハムスターとデグーというげっ歯類達と暮らしています。

—飼われているハムスターをモデルにしているんですか?

そうですね。抱っこして360度見ながら、可愛い角度を探っています。平面と違って、あごの下からや後ろ姿など、いろんな角度を表現します。いい角度を見つけ粘土でつくっていく感じです。

もぐもぐハムスターフィギュア
プリっとハムケツフィギュア

—なかのさんのTwitterで同じポーズのハムスターが何体も並ぶ写真を拝見しました! あれはどうやってつくっているんですか? まさか1点1点全部手づくり?

粘土で原型をつくって型をとり、できた型に樹脂を流し込んで複製しています。固まったら体に色をつけて、目や口の部分を順番に描いていくんですけど、完成に近づくにつれてどんどん可愛さが増していくのがたまらなく楽しいんです。できあがったハムスターがいっぱい並んでいるのを見るとテンション上がりますね。

—販売はどのようにされているんですか?

雑貨屋やギャラリーに預けて販売してもらったり、フィギュアやアートのイベント、百貨店の催事に出展したりしています。『hamuco.』はイベント出展のためにつけた屋号で、そのHPも立ち上げました。しかもイベントの出展がきっかけで、仕事にもつながったんですよ! 会場にカプセルトイの制作をされているメーカーさんやグッズを作られている企業の担当の方が来られていて、原型をつくって欲しいとご依頼をいただきました。

—チャンスってどこに転がっているかわからないですね! 他にどんな動物の依頼があるんですか?

ハリネズミ、ペンギン、アザラシなどいろいろです。あと最近お仕事で、ドラマの公式ライセンスグッズを制作しました。ドラマの主人公が劇中で飼っている、犬をモチーフにしたオリジナルストラップなんですが、メーカーさんがテレビ局と繋がりがあって声をかけて頂きました。自分の想像の範囲を越えたところからの依頼だったので、正直驚きました!

—そういう大きなお仕事につながった要因は、どこにあると思いますか?

きっと、これまでたくさんの数のハムスターや小動物をつくってきているので、どんな雰囲気の作品をつくる人なのかを覚えてもらっていたからだと思います。こりずに飽きずにやり続けることが大事だと感じています。

—同じモチベーションでつくり続けるのは、すごく大変で、難しいことだと思うんです。なかのさんがハムスターや小動物を制作するうえでいつも心がけていることはありますか?

お仕事や個人で制作している動物のフィギュアは、気持ちが入りすぎないように気をつけています。どちらも芸術作品ではないので、私の動物に対する重い思いではなく、素直にかわいいか、家に置きたいと思ってもらえるかが大事なのではないかと思うので。あと、リアルさよりも、実際にはあまりしないけれど、可愛いポーズを優先することが多いです。本物はひっくり返すとかわいそうですけど、お腹を見せると可愛かったり。フィギュアだからこそ表現できる新たな魅力があると思います。

—大学で学んだことで、フィギュア制作に役立っていることはありますか?

1点ものをつくるときに、アクリル絵の具で色を塗るんですが、平面の技法を立体に生かせる部分はたくさんあります。それと、展覧会やイベントに出展するときは、ポップやDMにデザインの要素が必要になってくるので、イラストレーターとフォトショップは勉強できてよかったです。作品をつくるだけでは、趣味の範囲に止まってしまうので、外に出して手にとってもらうために、お客さんの目に触れる部分をデザインする力はすごく大事だと感じています。あと「hamuco.」のHPも大学の授業を思い出しながらつくりました。

—デザイン力やWebの知識が、作品や作家活動を伝える武器になるんですね。今後、さらに活動の幅を広げるために、今やっていることはありますか?

今勉強しているのはデジタル造形です。粘土では難しいけれど、デジタルでは簡単なことが結構あるんですよね。例えば、手作業だけでは難しい造形や加工もデジタルなら簡単にできてしまうところもあります。イラストも手描きと、デジタルで描くものがあるように、造形も今後そうなっていくと思います。必要以上に頑張らなくていいところは効率よくやって、生まれた時間で新しいものをつくっていきたいです。

—最後に、なかのさんが2017年4月、イラストレーション領域に入学するならば、専門コースと、専門コース以外に複数の授業を選択できる他のコースは、それぞれどれを選びますか?

やはり専門は「フィギュア・トイコース」ですね。他のコースは学生のころであれば、「マンガ・絵本コース」を選んでいたと思うのですが、今選ぶなら「アートイラストコース」かな。フィギュアに印象派の絵画のような塗り方を取り入れたら、面白い作品ができそうなので。

なかの由峰 Yumi Nakano

大阪府出身・京都市在住。2005年 成安造形大学 イラストレーションクラス卒業。2009年『hamuco.』を立ち上げ、ハムスターとその他小動物をモチーフにした雑貨を制作。2011年より成安造形大学 非常勤講師として、立体造形の授業を担当している。
http://hamuco.ivory.ne.jp

取材・文:西川有紀(G_GRAPHICS. INC)