未来図鑑
【卒業生インタビュー】
いつでも
今描いている仕事が
一番楽しい
男の子なら誰もが夢中になって遊んだ経験があるであろうカードやゲームの世界。フリーランスのイラストレーター イシバシヨウスケさんも、そんな少年時代を過ごしてきた。高校の美術科で絵を描く基礎を叩き込み、成安造形大学でイラストレーションを学んだことから、趣味のマンガやゲームのイラストをデジタルで描くように。現在はカードゲームやゲームキャラデザインなど、業界の第一線で様々なイラストを手がけている。小さい頃に憧れていた世界で活躍する彼の人生は順風満帆に見えるけれど、その背景にはたゆまぬ努力と、イラストへのまっすぐな思いがあるはず。日々どんな風に仕事と向き合っているのか、彼の信念に迫ってみたい。
—イシバシさんは大学へ入学する時点で何か夢はあったんですか?
イラスト関係で何かの仕事につけたらいいかなくらいで、大学4年生の半ばくらいまでは具体的に考えていませんでした。4年生の8月にゲーム会社に就職が決まったあとにイラストの仕事の依頼もきたので、それから意識しはじめた感じです。
—イラストの仕事の依頼がきたってどういうことですか?
細かい経緯をいうと、4年生の卒業制作でモンスターのイラストを10点描いたんですけど、提出する前にPixiv(イラストコミュニケーションサイト)にアップしたんです。今でこそPixivはメジャーなんですが、僕がはじめた頃はオープンして1ヶ月くらいだったので、ユーザー数が6000人くらいしかいなくて。今はユーザー数が1000万人を超えているのでランキングに入れても良くて100位台なんですけど、その当時は10位台に入れたので、イラストレーターを探していたアートディレクターさんの目に止まって声をかけていただきました。
—在学中にイラストレーターとしてお仕事の依頼がくるなんてすごいですね! 依頼はどんな内容だったんですか?
カードゲームのイラストを描く仕事だったんですけど、その仕事のおおもとは、僕が中学生のときに遊んでいたカードゲームを作っている会社だったんですよ! さすがにテンション上がりました。
—中学生の頃のイシバシさんが聞いたらびっくりするでしょうね。就職をしてからもイラストのお仕事は続けていたんですか?
さすがに会社に黙って個人の仕事をするわけにはいかないので、ゲーム会社の主任に話をして許可をいただきました。会社には約3年勤めたんですが、その間は働きながら帰宅後や休日に個人のイラストの仕事をやっていました。
—ゲーム会社って忙しいイメージがあるんですけど、両立はできたんですか?
20代だからできたのはありますね。さすがに30歳を超えるとキツイかな(笑)。もちろんゲーム会社は忙しかったんですけど、会社に泊まったことはなかったです。会社が京都で、大阪から通っていたので、終電では帰るようにしていました。終電までには仕事を終わらせられるように集中して作業をしていましたね。
—ゲーム会社ではどんな仕事をしていたんですか?
ゲームのグラフィックを描いていました。今まで自分が描いてこなかったロボットや機械など直線で描くものが多かったです。フリーのイラストレーターになって、ロボットを描く仕事の依頼を受けることがあるので、ゲーム会社での経験はすごく役に立っています。
—それにしても、3年で独立を決断するって、相当勇気がいると思うんですよね。
イラストの仕事の幅も広がってきて、フリーランスでやっていく自信もついてきた頃だったので、僕にとってはちょうどいいタイミングでした。
—確かに、独立後のお仕事を拝見すると、ゲーム会社や玩具メーカー、出版社など、名だたる企業とお仕事をされていますもんね。どうやってつながっていったんですか?
ほとんどが 僕のHPを見て、クライアントさんのほうから連絡をいただいてつながった仕事です。クライアントさんは実績があるほうが安心して仕事を依頼できると思うので、仕事の実績は全てHPに掲載しているんですよ。掲載するときも雑多にのせるのではなく、仕事のジャンルごとに整理をして、依頼内容と直結するように見やすくしています。それが仕事につながった要因かもしれないですね。
—幅広い分野でお仕事をするのは刺激も多そうですね。
以前ライトノベルの挿絵の仕事をやったときに、カードゲームのイラストを描くときとは使う脳みそが違うことに気づきました。シチュエーションを描くことやモノクロで描く仕事は初めてだったので、かなり試行錯誤しましたね。シーンの指定はあったんですが、画風や線のタッチもいろいろ試しました。やっているときは大変だったんですけど、新しいことに挑戦できる仕事は勉強になるのでありがたいです。
—イラストを描くときに一番大変な作業は何ですか?
ラフを描くときですね。脳みそを一番使います。自分がいいなっていう感情が湧いてくるまで何回も描き直すので、1枚の絵を完成させるのに80枚くらい描くときもあって。それだけ考えて描いても、提出してボツになることはよくあります。
—そんなに描くんですか! それでボツになったら行き詰まったりしないんですか?
そういうときは中途半場に修正するのではなく、全部描き直したほうがうまくいきます。具体的な修正指示がある場合は別ですけど。
——具体的な修正指示がない場合、クライアントの意図はどうやって汲み取るんですか?
しっかりヒアリングをします。具体的ではなくても、どういう雰囲気なのか、こうしたい、ああしたいを聞いたうえで、それを踏まえて自分がいいなって思うところまでもう一度もっていきます。ボツになるとやっぱりヘコみますけど、最終的な仕上がりをみると、描き直したほうが良かったってなることのほうが多いですね。
—今やっていて一番楽しい仕事は何ですか?
いつでも今描いている仕事が一番楽しいですね。どんどん更新されていく感じがします。
—それすごいです! そう思ってやられているから次々とやりがいのある仕事が舞い込んでくるんでしょうね。ちなみにクライアントさんは全て東京の会社ですが、東京へ行こうとは思わなかったんですか?
思わなかったですね。クライアントさんから「でかい仕事やるからイシバシ来いよ」って言われたら考えるかもしれないですけど(笑)。仕事は大阪でもできるので問題ないですし、関西にも同じ業界で活躍しているイラストレーターはたくさんいます。
—イラストレーター同士の横のつながりはあるんですか?
関西で同じようにフリーでイラストレーターをやっている人たちとは定期的に飲み会をしています。時々その席にビッグネームの方も来られることがあって、関西に残って仕事をされていることに驚くことがありますね。先輩方は仕事の経験はもちろん、技術も素晴らしいので、言葉に重みがあるんですよ。話を聞くだけで学ぶことが多いです。
—同業種同士のつながりはフリーランスでやっていると大切ですね。
仕事は孤立してやるので、そういう集まりの機会にはなるべく顔を出すようにしています。仕事でも心がけていることなんですけど、顔を合わせるのってすごく大事で。メールのやりとりだけではお互いの意思疎通がうまくいかなかったのに、実際に会って話をしたらその方の人となりが見えて仕事がスムーズになることが僕は多かったんですよ。今はメールもスカイプもあるので、日本中どこでも仕事はできますけど、一度顔を合わせてから仕事をすると違いますね。
—これからイラストレーターを目指す学生にアドバイスをするなら、何を伝えたいですか?
教えてもらう環境にある場合、自分の苦手なものを教えてもらったほうがいいです。一人で苦手なものを克服するは大変なので、先生に聞いたほうが早いですし、ゆくゆく仕事の幅は広がると思います。仕事が広がるってことは、食べていけるということなので。もちろん専門的に1つのモチーフやテイストでやっていけるプロの方もいるんですけど、それはひと握りの方であって。いろんなものを描けるほうが重宝されますね。
—最後に、イシバシさんが2017年4月、イラストレーション領域に入学するならば、専門コースと、専門コース以外に複数の授業を選択できる他のコースは、それぞれどれを選びますか?
専門は「デジタルイラストコース」で、他のコースは「風景イラストコース」を選びますね。風景イラストが描けると仕事の幅がいっきに広がるんですよ。デジタルの業界でも背景専門で仕事をしている人もいますし、背景がしっかり描けると、1枚の絵として世界観を出せるので、主軸にあるデジタルイラストの追い風になると思います。
イシバシヨウスケ Yosuke Ishibashi
大阪市出身・在住。2008年 成安造形大学 イラストレーションクラス卒業。 ゲーム会社勤務後、2011年フリーランスのイラストレーターとして独立。数々のカードゲームや、ユニクロ2012年Tシャツのイラストレーション、ゲームキャラデザイン、プラモデルのパッケージイラスト、ライトノベル表紙挿絵などを手がける。
http://www.geocities.jp/kikira23rt/framepage1.html
取材・文:西川有紀(G_GRAPHICS. INC)