未来図鑑
【卒業生インタビュー】
イラストレーションの
活用範囲の広さを
社会に出てリアルに感じた
未来図鑑に登場する卒業生の中で最年少となる大山セキさん。卒業して3年という月日が経過した今も、彼女が卒業制作で描いた細密な動物とモチーフのインパクトは、卒展を観た多くの人の記憶に残っている。また、その作品は様々な賞を受賞し、「大山セキ」の名前が業界に知られるきかっけとなった。そんな彼女が卒業後に選んだのは、印刷会社でグラフィックデザイナーとして働きながら、イラストレーターとして活動する道。社会人として忙しい日々をおくりながら、個展やグループ展で勢力的に作品を発表する彼女が肌で感じる、イラストレーションの可能性とは?
—大山さんが描く動物は手ざわりが想像できるくらい写実的ですよね! 動物の毛並みを表現するのって難しいと思うんですが、どうやって描けるようになったんですか?
大学2年生のときに細密描写の授業を受けたのをきっかけに描けるようになりました。細かい描写は苦手な人が多いんですけど、私はすごく楽しくて。ものすごく細かく蝶の細い毛を描き込む授業内容だったんですが、他の子よりも早く仕上げることができて、作品の出来栄えも先生に褒めてもらいました。私は工芸高校の美術科でも絵を勉強したので、高校で培ってきたものを土台にしながら、大学でより専門的に学べたのは大きかったですね。
—高校で絵の勉強をしていると、大学の授業もスムーズに進めていけたんじゃないですか?
もちろんそういう面もありましたが、私はデフォルメをするのに苦労しました。入学してすぐに似顔絵を描く授業があって、見たままそっくりに描いていたんですが、他の子たちはアニメキャラっぽく描いたり、街中でよく見る味のある似顔絵のタッチで描いたり、デフォルメをして個性を前に出していて。描くツールは同じでも、人それぞれ描く意図がぜんぜん違うことに衝撃を受けて、最初の半年はみんなについていけるか不安でしたね。
—その不安はどうやって解消していったんですか?
同じコースに多彩な絵を描く友だちができたおかげですね。お互いの絵の良いところや悪いところを言い合って、切磋琢磨しながら前に進んでいきました。あと、成安が毎年取り組んでいる大津祭のキャラクター「ちま吉」のグッズ展開をするプロジェクトに参加して、メディアデザイン領域や総合領域の学生と一緒にものづくりができたのも励みになりましたね。
—刺激し合える友だちの存在は大切ですね。
その授業をきっかけに細密技法を磨いていったんですか?
それが、在学中の大半はコミック系のイラストを描いていました。成安のイラストレーション領域を選んだのもコミック系のイラストをやりたいという思いがあって。でも、3年生の夏に友だち4人とグループ展をやったんですが、お客さんに「この展示の絵はどれも似ているから区別がつかない」って言われて。自分たちの中では全員テイストはバラバラだと思って展示をしていたのでショックが大きくて。そこから思い通りに描けなくて、自分の絵が分からなくなってしまいました。
—でもその言葉が自分らしい表現を考えるきっかけになったんですね。
そうですね。ゼミで卒業制作の作品をつくるときに、蝶の絵を描くのが楽しかったのを思い出して、細密技法をもう一度使ってみようと思いました。描いてみたら、これまで描いていたコミック系のイラストの作品よりも評判が良くて。周りの人からも私らしいねって言ってもらえたので、今の方向に転換していきました。
—卒業制作のテーマは何にされたんですか?
表向きのテーマは「動物象徴」をテーマにしたんですが、裏のテーマとして「人物の負の感情」を表現しました。登場する人物はヘルメットやガスマスクで顔を隠しているんですが、顔を隠すことによって、心の奥に閉まっている負の感情を、みる人に想像してもらいたいという思いがあって。ヘルメットやガスマスクは外部から身を守ってくれるんですけど、付けると息苦しい。でも付けておかないと不安や恐怖心が湧いてくる、そんな心の葛藤を描きたかったんですよね。
—画材は何を使っているんですか?
デジタルで描いているので、液晶ペンタブレットを使っています。今使っている液晶ペンタブレットは卒業制作で描いたクジラの絵を飛鳥新社が主催する「ペンタブレットdeアート投稿コンテスト」に応募をしたらグランプリに選ばれて、その賞品でいただいものです。それ以来、大学の先生が私を紹介するときは「大学の卒業制作で液タブもらった子」って言われています(笑)。
—卒展の作品が学内はもちろん、イラストの業界で評価されるのはバネになりますね。ちなみに、ペンタブを使いこなすにはどんな技術が必要ですか?
基本的な絵を描く技術はやはり必要ですね。あと、大学の授業で教えてもらったんですが、ペンの線の種類を自分でカスタマイズできるのも細密技法にとって重要です。例えば動物の毛を1本1本描くとすごく時間がかかるので、あらかじめペンツールで毛の集合パターンを作っておいて、一筆で動物の毛がいっぱい描けるようにしておくと、時間の短縮ができます。アナログではできないデジタルならではの特徴をうまく使いこなせるようになると、より細密に描けるようになりますね。私の場合、絵を作品サイズに縮小したら見えない部分までつい描き込んでしまうので、逆に時間がかかるようになったんですけど(笑)。
—大山さんは現在印刷会社でグラフィックデザインのお仕事をしながら、イラストレーターとして活動されていますが、イラスト1本でやっていきたいという思いはありますか?
いつかは目指したいと思っているんですけど、今は両方やることでバランスがとれています。会社勤めで勉強になることがたくさんあるんですよね。デザイナーの仕事を始めてから、より専門的なIllustratorやPhotoshopの技術が身についたので、効率よくデザインを仕上げられるようになりました。チラシなどデザインをしたものは不特定多数の人が目にするものなので、デザインの考え方は、展示を企画するうえでも生かせる部分が多いです。
—デザインとイラストが両方できるのは大きな武器になりますね。
それはすごく思います。実際に仕事でデザインの要素として必要であればイラストを描くこともありますし、デザインを想定してイラストを描くようになりました。イラストがあることでデザインの幅が広がるので、それを一人でできるのは強みになるなって。デザイナーをしていると、イラストレーションは、チラシやポスターはもちろん、いろんな分野で活用できることをリアルに感じます。
—今はどういうペースで制作されているんですか?
個展やグループ展を軸に制作しています。仕事が忙しい時期に入ると、土日しか描けないときもあるんですけど、時間があれば絵を描いていますね。今年の夏と秋に関西でグループ展と企画展があるのと、9月27日〜10月8日の間、フランスで行われるグループ展「Paris de 日仏サンドウィッチ」に参加するのが決まっています。
—フランスで展示ってすごいですね!
日本のお面を描いた絵を見て声をかけていただきました。フランスでの展示は「日本」がテーマなので、今はそれに向けて目下制作中です。
—これから挑戦したいことはありますか?
絵を描くのと同じくらい、音楽が好きなので、CDジャケットのイラストを描いてみたいです。以前お世話になったギャラリーの方から、CDジャケットに模した絵の展覧会のお誘いをいただいているので、ぜひ参加したいと思っています。それをきっかけに、仕事にもつなげていきたいですね。
—最後に、大山さんが2017年4月、イラストレーション領域に入学するならば、専門コースと、専門コース以外に複数の授業を選択できる他のコースは、それぞれどれを選びますか?
やはり「ネイチャーイラストコース」は専門ですね。「デジタルイラストコース」の授業は選択して、もっと腕に磨きをかけたいです。それと「メディアイラストコース」でいろんな媒体に向けた表現の仕方を学びたいですね。デザインをしながら絵を描いていると、メディアイラストの要素は重要だなって思います。9コースの再編は目標に合わせてコースを選べるし、専門だけじゃなくて、他のコースの授業も選べるのがいいですね。他の分野を学ぶことで、表現の幅や見せ方も広がると思います。
大山セキ Seki Oyama
大阪府出身。2013年 成安造形大学大学 イラストレーション領域イラストレーションコース卒業。受賞歴に第98回二科大阪展「第11回ポストカードデザイン大賞」一般の部 奨励賞(2013年)、飛鳥新社・ワコム社共催「ペンタブレットdeアート投稿コンテスト」グランプリ・ワコム賞(2014年)、「桜 Exhibition 2015」ARCPHILIA賞(2015年)など。
http://rem-illust.strikingly.com
取材・文:西川有紀(G_GRAPHICS. INC)