未来図鑑
【卒業生インタビュー】
アートディレクター/クリエイター
今の仕事の
根っこにあるのは
大学祭で培った経験
東京にあるクリエイティブスタジオ「ワムハウス」の代表取締役を務める中村和明さん。代表という立場でありながら、演出家、プロデューサー、クリエイターとして、現在も数々の有名アーティストのライブプロデュースや映像の企画・制作を手がける。近年はワムハウスの代名詞ともいえる仕事、アニメ『ギルティクラウン』から生まれた、supercellのryoがプロデュースを手掛ける架空のアーティスト「EGOIST」の3DCGを使ったライブの企画・開発を担当。新しいライブのジャンルをつくりあげ、国内のみならず、世界にその名前が広く知られるきっかけとなった。今回はワムハウスのオフィスへ伺いお話を聞いた。世界が認めるクオリティを生み出す中村さんは、どんな大学時代を過ごしていたのか。そして、そのエネルギーとアグレッシブさはどこからわき上がってくるのか。時代のスピードはどんどん加速していくなかで、常にちょっと先を見ている中村さんの視点、しかと受け止めてほしい。
—中村さんが成安造形大学でCGを学ぼうと思ったきっかけは何ですか?
高校3年生の頃からシンセサイザーを使って打ち込み系の音楽をつくり始めたんですけど、それがきっかけでミュージックビデオの制作現場を見せていただく機会があって。ちょうどその頃、ミュージックビデオにCGが使われ始めた時代で、音の世界がCGで映像化されるのを目の当たりにした瞬間に、近い将来ぜったいCGの時代が来ると思ったんですよ。映像の表現方法はいろいろあるけれど、CGはなにもないところから景色や物を産み出せるから、ゼロからイチがつくれるなって。近い将来パソコンやソフトももっと使いやすくなって普及するだろうから、今のうちに手をつけておこうと思いました。
—高校生でそれを感じとれたのがすごいですね。大学時代はどんな学生だったんですか?
勉強はそっちのけで、1年生のときに大学祭の実行委員に入って、僕は企画部長をやっていました。そのときに委員長をやっていたのが、成安で非常勤講師をしている陶芸家の谷穹で。谷と、そして1年生だけで集まった仲間たちとゼロから大学祭をつくっていきましたね。
—大学祭ではどんな企画を実施したんですか?
いろんな企画が出てきた中で、ひとりでできてしまう企画ではなく、自分と他の学生や学外の人を巻き込むような企画をできるだけ採用しました。例えば成安の前にある小学校の生徒や、近所の商店街の人に協力してもらわないとできないこととか。自分たちと外の人の力をミックスすることで新しいことに挑戦できますし、巻き込む人を増やすことで、その人の家族や友だちも学祭に遊びに来てくれる。その結果、集客にもつながるので、大学側も応援してくれました。芸大生の強みって、何でも自分たちでつくれるところなんですよね。イベントみたいなカタチのないものも、各コースのいろんな特技をもった人が集まるからこそ、会場の装飾から告知物をつくって情報を発信するところまで、すべて自分たちでできる。実行委員会でそれを具現化したいと思いました。大学祭は学生やお客さんに楽しんでもらえたと思うので、今もその感覚は忘れられないですね。
—大学祭の成功の決め手は何だったと思いますか?
実行委員をスタートしたのが大学祭の半年くらい前からだったんですけど、みんなのモチベーションを最後まで保つにはどうしたらいいかを委員長の谷と一緒に考えました。その結果、「今月までにこのグループには何をどこまで仕上げてもらおう」と、その人の得意そうな役割に割り当てて分担しながら、いま誰が何をやるべきかを細かく設定して、みんなで力を合わせて大変なことも乗り越えました。
—運営や企画すべてにおいて実行委員に決定権があるのはやりがいがありますね。
そうですね。大学祭の予算の割り振りも全部自分たちに任せてもらえたんですよね。今思うと、僕の仕事の根っこは大学祭なんですよ。自分がいいと思った企画を分かりやすく伝える方法を考えて、実現していくためにひとつずつ問題をクリアにしていく。そのプロセスはいま仕事でやっていることとまったく同じですね。
—確かに、大学祭の話は全部仕事の進め方に直結しますね。現在中村さんは演出家やプロデューサーなど多岐にわたるお仕事をされていますが、在学中は映像クリエイターを目指していたんですか?
CGでも陶芸でも何でもいいので「自分の手でカタチあるものをつくること」を生業にしたいと思っていました。でも社会の中でのクリエイターの立ち位置は末端で、発注者がいて、受注者がいて、プロデューサーが割り振って、最後にデザイナーや映像クリエイターに仕事の依頼がくる。プロのクリエイターとして依頼内容を100%カタチにするのは当たり前なので、その当たり前のちょっと上をカタチにするには、方向性の間違っていない足し算をする必要があると思ったんですよね。だから制作現場で一番上のプロデューサーになって、プロデューサーの目線を理解してから、あえてクリエイターになろうと思いました。卒業後はイベント会社に就職したんですけど、プロデューサーとして起用されたのが決め手でしたね。社会の中で好きなことを仕事にしていくために、広い目線とミニマムな目線、両方が必要だと感じていて。
—そういう視点を持たれていたのも、大学祭で全体を仕切りながら、つくり手としても動いていたからこそですね。イベント会社ではどんな仕事をしていたんですか?
良くも悪くもなんでも屋さんで、大きなコンサートや企業の会議イベント、タバコの新商品のサンプリングなど、幅広くやっていました。今はコンサートへ行くと映像装置があるのは当たり前ですけど、僕が業界に入った頃は、イベント業界の中に映像というカテゴリーはまだあまり浸透していなくて。当時は映像を発注するのも大変だったので、自分でつくったほうが早いと思い、Appleに通って映像編集のプロライセンスを取得しました。提案の幅も広がるし、イベント全体のことがわかったうえで映像をつくれるので、需要はありましたね。振り返ると、僕らがイベント業界に映像を定着させた先駆けだったと思います。
—その後、入社して3年で独立されたんですね。
やっぱり最終的にはクリエイターになりたかったので、入社するときから3年で辞めようと決めていました。当時イベント業界で、プロデューサーもできてクリエイターもできる人はいなかったので、ありがたいことに重宝されました。会社を辞めると言ったら、仕事でお世話になっていた人が声をかけてくれて、独立してすぐにB’zのツアーで流す映像制作をやらせてもらいました。2年間その仕事をしながら、合間で他の映像制作の仕事なども受けて、フリーランスのクリエイターとして食べていけるようになりました。
—2005年に会社化されたのは一人では手に負えないほど仕事が増えてきたからですか?
映像クリエイターをやりながらディレクターやプロデューサー、プランナーの仕事もやるようになっていって、依頼をくれるクライアントさんの会社規模が大きくなってきたんですよ。大きな企業は個人ではなく法人化していないと取引できないところも多く、それがきっかけで始めたのがワムハウスです。1人で始めた会社も、一昨年からプログラマーも加わって、今では社員が6人になりました。
—人数が増えると、仕事の幅がさらに広がりますよね。ワムハウスでは数々の実績がありますが、中でも代表される「EGOIST」のライブやイベントの制作を手がけるようになったきかっけを教えてください。
EGOISTのライブは「3.5D THE LIVE」というシステムを使ってるんですけど、その開発チームがワムハウスなんですよ。アイディアのきっかけはMVNというモーションキャプチャー(現実の人物や物体の動きをデジタル的に記録する技術)のスーツなんですけど、センサーが埋め込まれたスーツを着た人の動きをコンピューターが解析して3DCGを動かしてくれるものなんですよね。日本のゲーム会社が持っているのを聞きつけて見せてもらったら、想像よりも動きがスムーズでびっくりしました。これはゲームやアニメのキャラクターを3DCGでステージ上に投影し、スーツを来ている人をその真後ろに置いて、双方の動きをシンクロさせたら、リアルタイムでキャラクターが動くライブができるかもしれないと思ったんです。
—その時点ではEGOISTを想定していたわけではなかったんですね。
そうですね。キャラクターとお金と場所を用意してくれたらMVNの技術を使ってキャラクターの生のライブができるかも!と、いろんなところで吹聴していたんです。そしたらソニー・ミュージックのプロデューサーから、面白いから来月シンガポールであるアニメイベントでEGOISTのライブをお披露目したいと言われて。まだ何もできていないのに、一発目を海外でやるっていう、怒涛のスケジュールになりました(笑)。
—1ヶ月でつくりあげるって普通に考えたら不可能に近いですよね。
大変でしたが、なんとかしなきゃいけないので、システムも3DCGモデルも1ヶ月でカタチにしましたね。EGOISTの「楪(ゆずりは)いのり」というキャラクターはイラストレーターのredjuiceさんが描いているんですけど、そのライブで採用した衣装の全身イラストがなかったので、3DCG化するために正面、横、後ろ姿を描いてほしいと依頼したんです。でもとてもお忙しい方なのでスケジュールの関係で難しいと言われてしまい、さてどうするかってなったときに、ダメ元で僕が描いてみてredjuiceさんに監修をして頂き、OKをもらいました。その後のライブで、アンコールで登場する、ポニーテール姿でグッズTシャツを着る楪いのりは、僕がキャラクターデザインをしました。結果的にredjuiceさんが描く公式イラスト以外の楪いのりを描かせてもらえる事になりました。
—redjuiceさんから許可をもらえる中村さんの画力がすごいです! 中村さんが思うEGOISTのライブの魅力はどこだと思いますか?
ハイテクな技術を使っているんですけど、すごくローテクなことをやっているところですね。EGOISTはchellyというボーカリストが実際にスーツを着てステージ上のスクリーンの真後ろで歌っています。客席からchellyちゃんの姿は見えませんが、chellyちゃんからはお客さんの姿が見えているので、対話もできるし、たまに失敗だってしますし、感動したら泣いたりもします。ライブの醍醐味や面白さってそこにあると思うので、それを3DCGで表現できたのは、アニメファンの思いをカタチにできたかなって。
—ファンの方の反応はどうでしたか?
実際に見えているのは3DCGキャラクターの楪いのりのはずなんですけど、みんなライブ中に「chellyちゃんかわいい」っていうんですよ。MVNのスーツのセンサーの感度がすごくいいので、着ている人の仕草を細かく表現できることもあって、chellyという女性アーティストの顔も姿も見えてないはずなんですけど、楪いのりの向こうに目のフォーカスが合っているみたいな感覚というか。chellyちゃんの姿を見たいわけではなくて、chellyと楪いのりを重ね合わせてひとりのアーティストとしてみてくれている感じがします。
—まさに新しいライブのジャンルが確立された瞬間な気がします! 中村さんが次に挑戦したいことは何ですか?
海外の仕事が増えてきているので、日本のコンテンツをもっと海外に発信したいですね。EGOISTのアジアツアーをやって感じたんですけど、体感的に言語の壁は乗り越えられるなって思っていて。アジアでのライブも全部日本語で歌うんですけど、めちゃくちゃ盛り上がるんですよ。みんな日本語を勉強して、日本語の歌を覚えてきてくれる、そのパワーがすごくて。ライブでは本物のEGOISTが来た!って泣いて喜んでくれるので、そこを担えているのは、日の丸を背負っている気分になりますね。これからも120%、130%のパフォーマンスができるように、面白いものをつくり続けていきたいです。
—最後に、中村さんが2017年4月、イラストレーション領域に入学するならば、専門コースと、専門コース以外に複数の授業を選択できる他のコースは、それぞれどれを選びますか?
コースを選ぶ基準は、今の自分が知らないことや、やったことがないことを選びたいですね。なのでひとつは「マンガ・絵本コース」かな。映像やデザインなど、イラストを中心としたメディアアートのジャンルの根っこはマンガだと思うんですよ。情報をそぎ落としたシンプルな構成で、映像では表現できないものをイラストで描ける自由度があって、誰が読んでも分かりやすくて心に響く言葉を使う。マンガは大好きなので、今の仕事に生かす目線でマンガの理論を学びたいですね。あと気になるのは「フィギュア・トイコース」かな。自分が描いたキャラクターのフィギュアを自分でつくりたいです(笑)。自分が描いたキャラクターが立体物になる喜びは大きいだろうなって思います。
中村和明 Kazuaki Nakamura
京都市出身、東京都在住。1999年成安造形大学 デザインコース映像CGクラス卒業、2000年同大学 芸術計画クラス研究過程修了。同年株式会社マッシュに入社し、イベントプロデューサー兼ディレクターとして3年在籍。2003年よりフリーランスのクリエイター・プランナーとして独立。2005年6月有限会社ワムハウス設立、代表取締役就任。イベントプロデューサー、映像・音楽制作、グラフィックデザイン、プランニングなど多岐にわたる分野で仕事を手がける。これまでに、 B’z、福山雅治、中川翔子、GENERATIONS from EXILE TRIBEなど数々の有名アーティストのライブ映像やプロデュースを担当。2013年よりEGOISTのライブにおけるプロデュース、演出、映像、デザイン、脚本などライブ全般の企画を行う。
http://wamhouse.net
取材・文:西川有紀(G_GRAPHICS. INC)