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未来図鑑

【卒業生インタビュー】

アニメーター
渡邉 祐記

ひとつひとつの仕事に
魂を削りながら
やっていきたい

マンガ家志望だった渡邉祐記さんは、ひょんなことからアニメーターを目指すようになり、人生が大きく変わったそう。フリーランスのアニメーターになって4年。これまでに携わったアニメ作品は20本以上になる。ここ数年、日本のアニメ業界は作品の本数が右肩上がりで増加。それに伴いアニメーターへの負担が懸念されている。そんな激動の業界に身を置きながら、若手アニメーターとしてキャリアを積みかさねている彼の根底にある思いとは。仕事へのこだわり、そして、そこから浮き彫りになる彼の志が知りたい。

※イラストは渡邉さんによる描きおろし。キャラクター化した自身と制作風景を商業アニメーション作業におけるレイアウト(背景、人物の画面の収まりや撮影処理の指示を書き込む設計図)を用い描いていただきました。

「お前はコンセントっぽいと言われたことから、そのまま自画像にしました」と渡邉さん。

—絵を描くことを仕事にしようと意識しはじめたのはいつからですか?

高校生の頃からですね。本当は高校から美術を学びたかったんですが、僕の出身の新潟には美術高校がなかったので、大学は芸大へ行こうと決めていました。高校1年生の後半から画塾に通って、入試に向けて絵を勉強しましたね。

—新潟だと東京の方が近いですよね。なぜ成安造形大学を選んだんですか?

昔から関西への憧れみたいなものがあったので、関西の芸大を探しました。成安造形大学を選んだのは、オープンキャンパスへ行ったときに、少人数制で先生が学生一人ひとりに対して丁寧に教えてくれる印象を受けたのが大きかったです。当時もアニメに興味はあったんですが、いっぱい絵を描かないといけないから、めんどくさそうと思っていたので、マンガを描く目的でイラストレーションクラスに進みました。

—めんどくさいと思っていたアニメに方向転換をしたのは何がきっかけだったんですか?

僕が在学していた頃は大学行きのスクールバスの中にTVモニターがあって、いろんなサークルのPR映像が流れていたんです。友だちに「お前の好きそうなのやってるで」って言われて、バスに乗ってみたら、放送系のサークルがつくったアニメが流れていました。それがものすごくかっこよくて、衝撃が走ったのがきっかけです。やっぱりアニメの方向へいこうとその時に決めました。まだ入学して間もない頃ですね。

—マンガ家志望で選んだ当時のイラストレーションクラスにアニメの授業はあったんですか?

映像に関する授業はほとんどなかったので、アニメの動かし方は放送系のサークルに入って先輩に教えてもらったのと、本を読んで習得しました。イラストレーションクラスでは絵を描く部分を学びましたね。アニメはいろんな絵を描く技術や要素が必要なので、それらを全部勉強できたのはよかったです。コマ送りにして動いているように描く方法や、1つの方向だけじゃなくて、360度全部の角度から描く技術。それから映像なので絵に映画的な要素を表現する構図や、デザインの構成の基本も全て大学で学びました。実際にアニメーターになって感じたのは、映像ももちろん大事なんですが、絵が描けないと続けていくのが難しいということですね。

—渡邉さんは卒業後すぐにフリーランスで活動を始めたんですか?

正社員ではないんですが、アニメスタジオと業務委託契約を結んでアニメーターとして下積みを経験しました。下積みは動画マンという、原画(1つの動きのある映像の中でキーとなる絵)と原画の間の連続する一連した動きを作画する仕事がメインになるんですけど、そこで3ヶ月間基礎をやらせてもらいました。その後に大学在学中のツテで仕事の依頼をいただいたので、フリーランスとして仕事をはじめました。それをきっかけに仕事が広がって今に至る感じです。

—今はどういう仕事をされているんですか?

作画監督を主にやっています。テレビアニメは1話ごとにいろんなアニメーターさんに動きを描いてもらうので、人によって絵柄が違うんですよ。あがってきた絵柄に指示をだして、絵のテイストを合わせていくのが作画監督の仕事になります。

—フリーランスでやっていて、在学中の経験が活きている部分はありますか?

サークルや卒業制作でアニメ制作の全てに関わったことですね。実際に商業アニメーションの世界は分業になるので、仕事の一部分しか関わることができない場合が多いんですよ。全ての制作をやっていると、全体の流れを踏まえて自分がどの役割を担っているのかが分かりますし、他の担当者の動きも想像できるので、フリーランスで仕事をする上でとても役にたっています。会社に入っていたら別ですが、フリーランスは誰も教えてくれないですからね。

イラストの上に表記されたカッコ内の数字はカットの秒数を表す。商業アニメは1秒を24コマで計算するので、(9+00)なら9秒、(5+18)なら5秒18コマになる。

—商業アニメーションの世界が細かい分業制とは知りませんでした。他に「アニメ業界の実は」な話があれば教えてください。

一般的な業界は年功序列だと思うんですけど、アニメの業界は完全に実力主義の世界ということですかね。実際にアニメーターで一番重要な役職の一つであるキャラクターデザインを手がけている20代の方もたくさんいます。結果を出すことで次の仕事に繋がっていくので、やりがいはすごくありますね。

—20代から活躍できる業界って夢がありますね。同年代の方から影響を受けることも多いんじゃないですか?

そうですね。絵描きとして影響を受けたのは、『恋愛ラボ』のキャラクターデザインを手がけた中島千明さんと、『キズナイーバー』のキャラクターデザインを手がけた米山舞さんです。僕と年齢もほとんど変わらないんですけど、絵も動きも構図もデザインも、全部のレベルが高いんですよ。キャラクターは基本的にいろんなアニメーターが描ける絵のデザインが求められているので、二人とも立体感があるのに必要最小限の線で描かれていて描きやすいんですよね。そして何より純粋にキャラクターが可愛いのがすごいと思います。

—若い女性も第一線で活躍できる、まさに実力社会ですね。ちなみに、1クールのアニメをつくるのに何人くらいの人が関わっているんですか?

映像の現場作業に関わっている人だけを数えても、1話ごとに数百人単位で関わっているので、1クールになると数千人単位の人が関わってきます。企画段階のプロデューサーさんや宣伝をする方なども含めると、さらにそれ以上の数になりますね。

—想像以上でした。ケタが違いますね! それだけいろんな方が携わるお仕事をする中で、渡邉さんが大切にしていることは何ですか?

描くキャラクターをしっかり理解することですね。ポーズひとつとっても性格によってでてくるものが違うので、考える工程を丁寧にやっています。実は少し仕事に慣れてきた頃に一度怒られたんですが、自分が描くキャラクターを目立たせたいっていう思いが前に立って、キャラクターのことをちゃんと理解しないまま進めてしまい、絵コンテ(脚本の文章を1カットずつ絵に起こしたもの)の内容を変えてしまったことがありました。監督や演出家は全体の流れを俯瞰して考えているのに、それに沿えてなかったんですよ。自己表現の意味を履き違えていたなと反省しています。

—でも失敗から学ぶことは大きいですね。これから先もアニメーターを続けていくために、かかげている課題はありますか?

うまくなり続けないと生き残れないので、仕事をしながら自分の絵の技術を高めていきたいと思っています。例えば、同じスタジオの作品を続けて描かせていただくのはありがたいんですけど、テイストが偏ってしまう場合もあるので、絵描き的には良くないと感じていて。僕はいろいろ描くほうが向いていると思うので、幅を出すためにも、できるだけいろんな作品に携わりたいですね。

—仕事をやっていてやりがいを感じる瞬間ってどういうときですか?

何種類かあるんですけど、今でも自分が描いたキャラクターが動くのをみるとアドレナリンが出ます。あとは視聴者からの反響があるのを聞くとやっぱり嬉しいですね。準備期間は苦しいんですけど、放送が始まって反応があると苦しかったのがチャラになります。最近思うのは、自分がいなくなってもつくった作品はずっと残っていくので、いいものをつくる理由ってそこにあるのかなって。みた人の心に残る作品になるように、ひとつひとつの仕事に魂を削ってやっていきたいですね。

仕事で凹んで心がバッキバキに折れると、たまにこんな風になるそう。

—これからアニメーターを目指す高校生に大学生活へのアドバイスはありますか?

僕が言うのもおこがましいですが、授業は全て将来役立つように考えられているので、授業でやっていることは何を意味しているのかを考えて受けたほうがいいです。それと、大学は“教えてもらうところ”じゃなくて、“教えてもらいに行くところ”ということですかね。前のめりになって先生に教えてもらわないと、4年があっという間に終わっちゃいます。卒業制作展は4年間の積み重ねの結果が全部出るので、大学生活が充実していた人とそうでない人がはっきりと分かれます。ごまかしは一切きかないので、後悔しないように取り組んでほしいですね。

—最後に、渡邉さんが2017年4月、イラストレーション領域に入学するならば、専門コースと、専門コース以外に複数の授業を選択できる他のコースは、それぞれどれを選びますか?

専門にするのは自分の好きな「アニメーションコース」を選んで、そのほかのコースは幅が広がりそうなので「フィギュア・トイコース」の授業を受けたいです。工作系はすごく苦手なので本当はやりたくないですけど、あえてそこに挑戦したいですね。やれることだけやっていると、どっかで詰まっちゃうかなって思います。

渡邉 祐記 Yuuki Watanabe

新潟県出身、兵庫県在住。2012年成安造形大学 イラストレーションクラス卒業。現在フリーランスのアニメーターとして、原画、作画監督、演出などを手がける。これまでに携わった作品は『キズナイーバー』EDコンテ・演出・作監・原画、『プラスティック・メモリーズ』メインアニメーター、『異能バトルは日常系の中で』EDコンテ・作監・原画、 『未確認で進行形』MV作監・OP/ED原画など。7月から放送がスタートした『NEW GAME!』ではOPの原画を担当。
https://twitter.com/aninabe05

取材・文:西川有紀(G_GRAPHICS. INC)